予想の斜め下に埋まる

小説と日記とエッセー

小説:ミステリー記念日(2017年10月7日)

 つい2分前まで「我を失う」ということを経験したことはなかった。私は行く先々で「冷静な人」として通っていたし、事実、今まで感情をあらわに怒ったことは記憶にない。烈火のごとく人に当たるやからを見下してさえいた。しかし私にもそういった気質があることを承知せざるを得ないようだ。右手にかかる青銅像の重さがその認知を強く促している。そのブロンズ像は岩に静かに座るサルをかたどっていた。種類はなんだろう。チンパンジーだろうか。いや、この腕の長さはオランウータンだろう。観察を終え私が腕を下げると、逆さになったサルの頭から血が垂れカーペットにじわりと赤いしみを作った。