予想の斜め下に埋まる

小説と日記とエッセー

小説:釣りの日、まぐろの日、缶詰の日、島の日(2017年10月10日)

 「釣れない」

 状況と結果のあまりの不一致さに出た独り言がどこまでも続く黒い鏡面に静かに溶けていった。時刻は11時を回っていた。ナトリウムランプの光が背中越しに海に差し込んでいる。今度はため息が漏れた。

 久しぶりに休暇がとれたので私はある孤島へ向かった。前々から行きたいと思っていたその場所はカサゴのスポットであり、釣りに目がなかった私は今回の休みでとうとう来ることが出来たのだった。運よくその日は波と風がほとんどなく釣りには最適な環境だったので、まだ見ぬ釣果に心躍らせながら夜の堤防に腰を下ろしたのが2時間前のことだ。

 全くもって釣れない。波、風、潮、場所。どれをとっても申し分ない条件だったのでかえって私の心は大荒れだった。またとないこの機会をふいにしたくない。その一心でさらに気は急いていく。

 しかしふとした瞬間に集中力の糸が切れてしまった。私は開き直って、引きに対する反応が鈍くなると思っていたので普段は持ってきていなかった発泡酒を取り出した。一口飲むと私の意識は波間を漂い始める。つまみを持ってきていたことを思い出し、まあまだ明日があるさとあの刺身の食感を思い出しつつマグロの缶詰を手に取った。